今は待て「消費再増税」 「女性店長」が突破口!

松本 隆 氏
「そごう・西武」社長

2014年11月号 BUSINESS [インタビュー]
聞き手/本誌編集人 宮嶋巌

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松本 隆

松本 隆(まつもと りゅう)

「そごう・西武」社長

1952年東京都出身。早大政経学部卒業。75年西武百貨店入社。人事部長、船橋店長などを歴任。2006年セブン&アイ・ホールディングスの傘下に入り、新生「そごう・西武」の取締役商品部長などを経て13年より現職。セブン&アイの常務執行役員を兼ねる。

写真/平尾秀明

――個人消費が落ち込む中、中間決算(3~8月)は増収増益でした。

松本 都心部の百貨店は、株高による資産効果や訪日外国人の増加で買い物が増えたが、地方のお店はどこも厳しい。当社は地方のお店が多いですから、土俵際でよく踏んばってくれたと思います。

――消費税再増税をどう考えますか。

松本 殴られた痛みが消えないうちにまたぶん殴られる消費者心理を、国にもご理解いただきたい。上げるんだったら一度にするべきでした。痛税感をずっと抑えられた――。政府が描く景気回復のシナリオどおりではないようです。消費税が上がり、円安でガソリン代や諸物価が上がったのに、給料はそれほど増えず、実質賃金は減り続けています。消費が落ち込むのは当たり前。9月の日銀短観で、我々小売業の景況感も、企業規模の大小を問わず、大幅に悪化しています。

――消費税10%への引き上げが、政府の既定路線になっています。

松本 今はダメです。消費者心理をどん底に落としかねない。アベノミクスによって収益が改善した企業が設備投資や賃金を増やし、経済全体が潤うまで待つべきです。わずか1年半に2度の消費増税は、景気が上向き、うまく回っていることが前提です。既定路線にこだわって、景気の腰を折ったら、元も子もない。

セブン&アイ傘下入りのメリット

――セブン&アイホールディングスの傘下に入って8年が経ちました。

松本 グループから多くのことを教わりましたが、真っ先に取り組んだのは単品管理でした。セブン&アイでは当たり前なのに、百貨店の対応は遅れていました。単品管理とは、マーケットが変化する中でデータを読み解き、品揃えを変え、売上を伸ばすことです。今では、全国24店で赤いコートが何枚売れたかなど、翌朝には全てのデータが揃っています。

私が商品部長の時、鈴木(敏文)会長から「百貨店はどこも同じ商品を並べている。独自の商品を作らないと競争に勝てない」と諭されました。そこで当社は、他の百貨店にはない単品管理システムを作りました。これが羅針盤となり、自社で企画から生産、販売まで一貫して行うプライベートブランド「リミテッドエディション(LE)」を創出しました。大量のアラシャンカシミヤをイトーヨーカドーと共同で仕入れ、原価低減に成功したカシミヤセーターや、50代の夫婦にさりげないペアの着こなしを提案する「アベックモード」などが人気を博し、自主企画商品の売上は、今期1千億円に達する見込みです。セブン&アイの傘下に入ったメリットを最大限に享受しなかったら、この成功はありませんでした。

――大震災後、消費者の意識は大きく変わったといわれます。

松本 キーワードはethical(エシカル)です。非常に「倫理的」にものを考える人が増えています。特に若い人は、自分の蓄えで生きていこうと考え、男の子でも栄養のバランスを考えたお弁当を作るし、朝は「スムージー」から始めるとか、非常に健康的で知的な生活を好む若者が増えています。消費増税前後の買い物も以前とは大きく異なり、増税前でも無駄な買い物をしない人が多く、ファッション領域では、増税後に買い物をしている人が大勢いることが、営業報告からわかりました。必要なものを欲しい時に欲しいだけ買うわけで、何かにかこつけて勢いで売ることが、うまくいかない時代です。もう一つは家計の厳しさです。果たして価格に見合う値打ちがあるか、お客さまは研ぎ澄まされた感性で店頭を歩かれる。この素材はどこでとれたもので、どういう着こなしをすれば風合いが生き、お持ちの何にこれを合わせると素晴らしい体験ができるかをご納得いただけなければ、購入されません。今のお客さまのニーズに応えるには、安さより質を追求した商品でなければダメです。

――全店の4分の1が女性店長となり、初の女性店長会を開きましたね。

松本 セブン&アイ傘下に入ってから女性登用を本格化させ、女性店長は昨年の4人から今年9月で6人になりました。百貨店は女性服が中心で、お客さまの8割は女性ですから、女性ばかりの店があってもいい。実験店となった所沢店の社員構成は女性2​4​9人、男性19人。係長以上の管理職は全員女性です。「女性体感視点」に立ち、売り場のレイアウトや提案の仕方を変え、会議や打ち合わせも「車座」形式に改め、小さいながらも成果を積み重ね、売上も好調です。

ちやほやする気は毛頭なく、時代が求めているから、女性店長会をスタートさせました。百貨店で働いている以上、いろいろなことに興味を持って、自分で見て、食べて、試してみなければ、売り場は変わらない。そういうことは女性の方が得意です。男性というのは座標軸の中で自分の位置をすごく気にするけど、女性はあまり気にしない。なぜなら、自分の中に座標軸があり、自分の価値観を人との関係の中であまり位置付けないから。今の時代、女性の方が枠から飛び出して変えていく力があると思う。女性店長がもっと増えるべきだと感じています。

女性店長会は「参議院」の役割

――女性店長会の役割は?

松本 全店長会を「衆議院」に例えるなら、女性店長会は「参議院」です。つまり、全店長会の後で開かれる女性店長会に、全店長会の決め事をひっくり返す権利を与えることにしました。これからは、女性の力で回していく会社にしたいと本気で考えています。いちばん大事なのはお客さまであり、女性中心のお客さまがどう思って、どう納得するのか。そこにフォーカスを当て、どんどん意見をぶつけて欲しいと思います。

店長が事務所で腕を組んでいるような時代は終わり、這いつくばるように店頭を歩き回らなければならない。残念ながら男性は婦人服を着られないから、その分、3倍も5倍も勉強しないと店長は務まりません。仕事の仕方を変えて、実を取る時代なんです。

   

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