オリンパス内視鏡、米国で感染騒動

またも「不都合な真実」に蓋。大事な北米でFDAの不興を買ったうえに、集団訴訟の恐れ。

2015年4月号 DEEP
by 山口義正(ジャーナリスト)

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3月6日付のリリースと十二指腸内視鏡

オリンパスの「ココロとカラダ」は、やはり劣化が相当深刻なようだ。赤字続きのデジカメに加え、オリンパスの未来がかかる医療機器事業にも暗雲が垂れこめている。このところ、米国でマスメディアを賑わせているオリンパス製内視鏡による感染症拡大問題がそれだ。

例によってオリンパスの情報開示が不十分なうえ、国内メディアの報道も遅れているため、概要から説明しよう。発端は、2010年にオリンパスが十二指腸内視鏡TJF-Q180Vのデザインを変更したことから。従来型では内視鏡の先端キャップが外れる設計だったが、先端の外れない一体型に改め、洗浄や消毒が難しい形状になった。

米国法では、過去にFDA(米食品医薬品局)の認可を受けたものと同等の製品を販売する場合、文書化すればFDAの認可を新たに得なくてもよい。オリンパスは「その規定に従って当該十二指腸内視鏡を販売」(3月6日付の発表)してきた。

形状変更で感染者続出

ところが12年から、この内視鏡を用いたなかに全ての抗生物質が効かないスーパー耐性菌に感染した患者が続出。米フロリダやペンシルベニア、シカゴ、シアトルなどの病院で感染が相次ぎ、死亡者を出した。そして今年2月、ロサンゼルスのロナルド・レーガンUCLA医療センターで感染し死亡した患者2人の遺族がオリンパスを相手取って訴訟を起こしたのである。

FDAの2月の公表では13年1月から14年12月までに135人の感染が報告されているという。さらに筆者に寄せられた情報によれば、今年に入ってから少なくとも11人の感染が確認され、感染した疑いのある患者数はカリフォルニアとコネチカットで計527人に上ることから、今後大規模な集団訴訟に発展する可能性が高いと思える。

前述したようにオリンパスでは3月6日の適時開示で販売には問題がなかったと説明。さらに9日には医療関係者向けに「FDAに認可を申請中」などと説明しているが、これらにはオリンパスが伏せている事実があるという。

実は6日の開示直後にオリンパス社員から「騙されないで」というメールが筆者に届いた。オリンパスの言う「文書化」とは「Letter to file という自己宣言で、軽微な変更等に適用されるもの」との内容だ。

これまでは取り外し可能だった内視鏡の先端キャップを一体型にしたTJF-Q180Vのように、根本的な設計変更をした場合には自己宣言は認められない。「それにより医療施設での洗浄・消毒方法の変更を伴うため」(同社員)だ。オリンパス広報・IR室も「そこが最も重要なポイントで、文書化による販売に問題はなかったという認識をFDAに伝え、現在協議しているところだ」としている。

このオリンパス社員の告発によると「先端キャップが外れない一体型にしたことで、医療関係者からは改悪だと言われ続けていた」という。医者たちの声を認識しつつ、内視鏡を販売し続けていたのであれば、オリンパスの責任は重かろう。

一方、形状の変更に気付いたFDAは昨年3月、自己宣言ではなく申請し直すようオリンパスに命じた。ところが「オリンパスが提出した申請書類には2カ所のデータ不備があり、FDAは再提出を命じたが、再提出はできていない」(同オリンパス社員)。再提出できない理由についてオリンパス広報は「感染を受けてFDAが精度の高い厳密なデータの提出を求めるようになったため」と説明するが、同社員は「形状を変更しての洗浄消毒データだから明らかに(結果数値が)悪くなっており、提出できない」と打ち明ける。

そのためFDAは正式な認可を与えず、オリンパスは勝手に自己宣言に基づいた販売を続けたのだ。FDAが正式に申請せよと命じているのは「自己宣言だけではダメだ」という意味であろうことは容易に想像がつくが、それでもなお販売を続けたのは強引すぎる。

他社排除の小細工が仇

オリンパスの医療機器事業(前期実績)を地域ごとに見ると、北米市場への売上依存度が最も高いうえに伸び率も28%と高い。「最も重要なマーケットでFDAの不興を買うような開示をして大丈夫か」――は、社員や株主にとっても大きな関心事であるのは間違いない。すでにオリンパスのリスク管理部門はてんやわんやの大騒ぎになっていると聞く。

これほど無理を重ねてでも販売を続けたのはなぜか。

同オリンパス社員によると「オリンパスが内視鏡に新しく導入したVシステムによって、他社製品を排除しようとしたため」という。Vシステムとは内視鏡先端の鉗子起上台の形状をVの字型に変更しそこに処置具が引っ掛かるようにしたもの。この引っ掛かりによって処置具が短くてすみ、操作が簡単で従来のように助手を必要としなくなった。オリンパスはこの処置具を含めV字の切れ込みも特許を申請している。米国ではボストン・サイエンティフィック社などの処置具が主流だが、これによりこの内視鏡ではオリンパスの処置具しか使えなくなった。

ボストンは、オリンパスが損失隠しのために外国企業を買収しようとした際、英ジャイラスよりも先に買収を検討した優良企業だが、買収のコスト負担が大き過ぎて断念した経緯がある。設計の変更によって、処置具の需要を自社で囲い込もうとして起こしてしまったのが今回の集団感染なのだ。

今回の問題で集団訴訟が起きる公算が高まっているうえ、米国の捜査当局は今なお損失隠し事件の捜査を継続している。さらにオリンパスの米国子会社が反キックバック法や虚偽請求取締法に基づく米司法省の調査を受けており、一体どれだけの罰金を科されるのか見当もつかない。業績が急回復し、財務内容も大きく改善していながら復配を打ち出せないのは、こうした懸念が去らないためだろう。

オリンパスの内視鏡は昨年夏にも全世界で3万台もの改修・回収を余儀なくされたばかりでもある。内視鏡の品質に疑問府がついたところに今回のスーパー耐性菌問題により安全性も疑われることになり、オリンパスにとって大きな打撃のはずだ。6月の株主総会で厳しい質問が出るのは間違いない。スーパー耐性菌問題は患者だけでなくオリンパス自身をも死に至らしめかねない病なのだ。

   

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