ふらつく「連合」、次期会長に神津里季生氏

2015年5月号 LIFE

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賃上げの花が舞い散る春の風――。安倍晋三首相は官邸に咲く桜を愛でながらこう詠んだという。自らの経済政策「アベノミクス」は「企業の業績回復→賃金上昇→個人消費の拡大」の好循環を狙う。今年の春闘も昨年に引き続き政府主導。「官製春闘」はすっかり板についた。

お株を奪われたのは労働者の代表であるはずの連合である。4月2日に開かれた政労使会議。古賀伸明会長(63)は今年の春闘の労使交渉の第3回回答集計を報告した。定期昇給とベースアップを合わせた賃上げ額の合計は6944円。昨年と比べると449円の上昇だ。「非正規労働者の賃上げ回答もあった。格差是正の環境整備ができた」と胸を張るが、それは連合の手柄では決してない。

一般組合員の「離反」はますます顕著になっている。

電機連合が昨年の衆院選後、組合員を対象に調査したところ、自民党に投票したとする回答が初めて民主党を逆転した。「組合が何かをするよりアベノミクスに乗っかったほうが得だという声が広がっている」(幹部)。

情報労連でも状況は同じだ。従来は7~8割で推移してきた組合員の衆院選投票率が、前回選挙では6割台にまで落ち込んだ。投票先では、民主党が自民党をわずかに上回ったものの、自民・公明両党に投じた人が4割弱もいた。これまでは自民党は多くても1割程度だったというから、現状は深刻だ。

働く人の組合加入率は2割を切り、連合の存在感の薄さは年々深刻さを増している。そこにきて、今年の春闘だ。連合の「融解」は止まらない。

人材難もまた深刻だ。古賀会長の任期は今年10月まで。3期6年を務める古賀氏の退任は確定的で、後任には事務局長を務める基幹労連出身の神津里季生(りきお)氏(59、東大卒、新日鉄出身)の昇格が確実視される。

神津氏は古賀氏が3選を決めた2年前も会長に取り沙汰されたが、幻に終わった。2013年の前回参院選で基幹労連の組織内候補が落選。「身内を国会議員にできないのに、どうして連合トップができるのか」との声に配慮したとされる。

幸か不幸か今年は参院選もなく、「神津会長」を妨げる障害はない。連合の求心力が落ちている中で、火中のクリを狙う候補も見当たらない。神津氏の昇格は消極的選択の最たるものだ。

こうした中で、連合は早くも来年夏の参院選に向けた準備を本格化させている。支持する民主党からは現行制度では最多となる12人を擁立する方針だ。前回参院選の比例での組織内候補の当選はその半分である6人にとどまったにもかかわらずだ。

民主党再生がおぼつかない中での異例の大量擁立に、「候補擁立に向けた連合内のガバナンスが利かなくなっているのではないか」(永田町関係者)との声も聞こえてくる。

民主党とならぶ野党の一角である維新の党とは2月から政策協議を始めた。将来の野党再編を睨んだものだが、橋下徹最高顧問(大阪市長)は「連合には今の公務員制度の問題点を認識してもらわないといけない」と官公労を抱える連合をけん制。どうも動きはちぐはぐだ。

春闘、人事、そして選挙。ふらつく連合はどこに向かうのか。自民党中堅はほくそ笑む。「連合が今の状態でいる限り、政権を奪われることは絶対ない」

   

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