編集後記

2015年7月号 連載
by 宮

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原子力規制委員会の会議風景(2015年5月26日、撮影/本誌 宮嶋巌)

原子力規制委員会に呼び出された日本原子力研究開発機構の児玉敏雄理事長

叩かれるのは覚悟の上だとしても、いささか気の毒だった。4月に39年間務めた三菱重工の副社長から日本原子力研究開発機構(JAEA)の理事長に抜擢された児玉敏雄(63)氏の「デビュー戦」である。5月26日、原子力規制委員会(NRA)に呼び出され、袋叩きに遭った。

JAEAの高速増殖原型炉「もんじゅ」で9679個に及ぶ機器の点検漏れが発覚したのは12年の秋。NRAは2年前に保安措置命令(運転準備禁止)を出し、その解除を目指すJAEAは今年3月、「保守管理体制を再構築した」とする報告書を文科省に提出した。ところが、直後に行われた保安検査で原子炉の安全上、特に重要な「クラス1」配管に点検不備が再び見つかった。田中俊一委員長から「私どもの保安検査官もうんざりするぐらいの状況にある。もんじゅは立派な看板を掲げているけれども、技術者としての魂を忘れているのではないか」と詰問され、「はい、嫌気がさすほどご迷惑をかけているかと思います」(児玉氏)と、ぐうの音も出なかった。

「点検漏れ」で引責辞任した鈴木篤之氏(元原子力安全委員長)に代わって急遽登板した松浦祥次郎理事長は高齢(79)のため、首相官邸と文科省は後任探しに奔走した。改革をアピールするには民間起用がベストだが、なかなか「成り手」が見つからない。某政府高官が三菱重工に推薦を頼み、児玉氏に白羽の矢が立ったという。氏は名古屋大院修士(機械)を卒業し、長らく研究畑を歩いたが、原子力の専門家ではない。今年2月に常務から副社長に昇進し、翌月辞めた。JAEA理事長は閣議了解人事であり、元副社長の箔づけが必要だったのだ。トップマネジメントを経験したことがない元常務に、東大・京大出身の鼻持ちならない原子力エリートの根城を改革できるのだろうか――。「罪作りな天上(あまあが)り」と、同情の声しきりである。

   

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