ライザップ「強欲商法」の代償

批判を受けて、ライザップが返金制度を見直し。フィットネス業界は「強欲」過ぎる。

2015年9月号 DEEP

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ライザップのウェブサイト

派手なCM演出で知られる、フィットネス大手ライザップ(RIZAP)の親会社、健康コーポレーションの2016年3月期第1四半期決算が8月12日に発表された。グループ全体の業績は、売上高121億円、営業利益2700万円だった。瀬戸健社長は「売上高は前年同期比で43%増になった。これまで第1四半期は営業利益が赤字で、後半取り返す形だったが、今期は黒字で始まることができた」と好調さをアピールした。

03年に創業した健康コーポレーションは、もともとは健康食品の「豆乳クッキーダイエット」の人気を背景に06年に札幌アンビシャス市場に上場したベンチャー企業だ。その同社がライザップの1号店を出店したのは12年のこと。それが現在は全国55店舗、海外4店舗を展開するまでに急拡大している。

だが、急速な拡大の裏側には危うさも潜む。拡大の原動力が、大量の広告宣伝費の投入にあるのは誰の目にも明らかだろう。今期の広告宣伝費は約28億円と売上高の23%を占める。受け皿となる店舗を急速に増やし、刺激的なCMで一気に会員を獲得するという単純なモデルだが、それを裏側で支えているのは同社の「強欲」ともいえる運営手法である。

突然変わった「返金制度」

ライザップの代名詞の一つは、CMでもお馴染みの「30日間全額返金保証制度(旧全額返金制度)」だ。効果が出なかった場合、利用者にコース料金を全額返金するという。2カ月間に全16回のパーソナルトレーニングを受けられる標準コースでも、入会金を含めると約37万円が掛かる高額なサービスだけに、全額返金の文字は入会希望者の心理的ハードルを大きく下げるものだ。

加えて自社割賦制度の存在も大きい。実質年率は法定金利ギリギリの19.8%だが、頭金0円、最大60回の分割払いは、今すぐ痩せたいと願う利用者にとっては魅力的だ。それらの仕組みもあり、会員数は累計3万5千人(6月末時点)を誇るまでになった。

だが少し前まで、インターネットにはライザップが返金に応じないという書き込みが溢れていた。元トレーナーが打ち明ける。「会員が返金を求めてくると、まずは店舗で対応し、次に地域マネージャー、本社の管理部門と次々に窓口を替えていく。たらい回しで返金に該当しない理由を繰り返されるうちに、諦める人も少なくなかった」

ライザップ側が返金を渋っていられた要因の一つは、自社割賦制度にある。クレジットカードなど信販会社を通じた分割払いの場合、もしサービスが契約と違えば、割賦販売法で認められた支払い停止抗弁権の適用を信販会社に求めることができる。しかし、自社割賦の場合は適用外のため、会員は自らライザップ側と延々と交渉しなければならないからだ。先述の元トレーナーは「以前は店舗レベルですぐに返金に応じることはまずなかった」と言う。

この未返金問題を巡っては、週刊新潮などが大きく批判したこともあり、慌てたライザップは6月18日から、30日以内なら無条件で返金する現制度に急遽切り替えた。だが、トレーニング時に購入を勧められるプロテインなどの物品は返金の対象外のままだ。このプロテインも1カ月分で約3万円もする代物であり、中には1年分を購入させられる会員もいるという。

図らずも瀬戸社長は会見で「プロテインなどは自社製造のため非常に利益率が高い」と誇ったが、既に高額な料金を支払っている会員にしてみればたまったものではない。たとえコース料金を返金したとしても、トータルで回収できればいいという腹なのだろう。だが、既に物販についても返金を求める動きが出始めている。両方の返金請求が相次げば、当然新規の獲得にも悪影響が及ぶ。その時に膨らんだ広告宣伝と新規出店のコストに耐えられるだろうか。

だが、なにも強欲なのはライザップに限ったことではない。フィットネス業界には経営を巡るトラブルも絶えない。

ライザップが掲げている低糖質食事法と筋肉トレーニングを組み合わせたダイエット手法は、もともとはトレーナーの吉川朋孝氏が考案した「吉川メソッド」を模倣したものだと言われる。その吉川氏は以前、名古屋市でパーソナルトレーニングジムを運営していたが、そこでTV「マネーの虎」などに出演していたオートトレーディングルフトジャパンの南原竜樹氏に共同経営を持ちかけられ、後に乗っ取り被害に遭っている。

吉川氏は「会社の口座にあるはずのカネがないことを南原氏に問い詰めたところ、突然社長を解任された。その時になって初めて、自分への株式の譲渡が嘘だったことに気付いたが、後の祭りだった」と明かす。南原氏はその後もしばらく吉川氏の看板で営業を続けていたが、吉川氏が訴えを起こしたことで、現在はLIVITOに変わっている。いわば、ライザップもLIVITOも吉川メソッドをパクった劣化版だといえる。

7月7日に、尾関紀篤氏と株式会社Shapes Internationalの民事訴訟の判決が下された。

尾関氏によれば、椿本氏は元ベンチャー・リンクの敏腕営業マンとの触れ込みで、尾関氏の依頼によりジムのチェーン展開を助けるという話だったが、経営方針の違いにより袂を分かった。

判決では、尾関氏の主要な請求であった1億円の逸失利益の請求は棄却されたが、まだ全面的な解決には至っていない。尾関氏が憤る。尾関氏は今後、全国の現シェイプスの店舗の近くに、判決で認められたシェイプスの名前で店舗を展開し、「こちらが本物だとアピールしていく」(尾関)と徹底抗戦していく構えだ。

(注)記事掲載後、知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10103号事件判決が出ましたので、記事の一部を書き直しました。

   

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