2006年5月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第1回 ]
『昭和二十年』(草思社)という奇書がある。著者は鳥居民、在野の歴史研究家とされる。1929年生まれ、横浜に在住というほかは何ひとつ知らない。知りたいと思ったこともない。おびただしい歴史の断片を渉猟しつくして、あの敗北の年を描いた鳥居の文章にすべてが語られているからだ。 帝国海軍の首脳陣は、対米戦争を回避するには中国から撤兵する以外に他策がないことを知り抜いていた。にもかかわらず、米内光政らはなぜ陸軍首脳にそう主張しようとしなかったのか。鳥居は鮮やかな補助線を引くことでみごとな解を示している。「陸軍の陰謀を警戒し、陸軍のしかけた罠に落ちるのを恐れていたからである」 帝国陸軍の首脳陣は、宿敵海軍をしてアメリカと戦う実力がないことを国民の前に告白させ、中国からの撤兵の責めをすべて海軍首脳に負わせる。そのうえで「アヒル艦隊」の予算を削減し、帝国海軍 ………
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