「元スパイ暗殺」に日本が沈黙する理由

2007年1月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第9回 ]

 ロンドンのピカデリー広場に通じるセント・ジェームズ・ストリートに建つ高級カジノ。夜が更けると黒塗りのリムジーンが次々に横づけされ、ドアマンがさっと駆けつける。まず降りてくるのはボディーガードだ。あたり一帯に鋭い眼を光らせ、ついで後ろのドアから男がおもむろに姿を見せ、赤いじゅうたんが敷きつめられた階段を上ってゆく。 ルーレットの賭け金がつりあがっていくのは深夜を過ぎるころからだ。帯封がかけられた50ポンド紙幣は、透明なビニールの袋に収められたまま、ルーレットテーブルにぽんと投げ出される。しめて5千ポンドの大金だ。ライトがきらびやかに輝く天井の一隅に据え付けられた隠しカメラ。そのレンズが賭場の模様を克明に追いかけている。賭け金をめぐって客とトラブルが生じる事態に備えて、証拠の映像を記録している――。これは表向きの説明にすぎない。カジノのセキュ ………

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