哀れなマネックス創業者/SBI北尾の「2度のパートナー略奪」に泣く松本大

新生銀行に続きドコモまで強奪。「煮え湯」を呑まされた松本氏の怒りは如何ばかりか。

2025年8月号 BUSINESS

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松本大取締役会議長(写真はHPより)

「相当な敗北感に苛まれているのではないか」。証券会社の役員がこう話すのは、マネックス証券の創業者である松本大氏の心情だ。

マネックスグループの代表取締役を退いた後も取締役会議長としてグループを事実上統括する松本氏が、なぜ悲嘆に暮れているのか。その理由は、「天敵」であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長にまたしても出し抜かれ、パートナーであるNTTドコモを強奪されたからだ。

もともとマネックスグループとドコモは、証券事業で資本業務提携を結ぶ強固なパートナー関係にあった。両者は昨年1月、折半出資によってドコモマネックスHDを発足させ、その傘下にマネックス証券を置く協調戦略をスタート。ドコモには金融事業が生み出す収益拡大と顧客を囲い込む狙いがあり、マネックス側にはドコモの顧客基盤やdポイント経済圏と融合することで、ネット証券2強に対抗する思惑があった。

ところが、ドコモによる住信SBIネット銀行の買収に絡んで、SBIHDの北尾氏がまるで「略奪婚」のような行動に打って出る。

ドコモが熱心に住信SBIネット銀行の買収をSBIHDに打診するも、北尾氏は「株式の売却価格が安い」と言ってこれに難色。今年2月には破談状態に陥った。しかし銀行買収に焦ったドコモが、4月末に買収価格を大幅に引き上げる形で交渉を再開。さらには親会社のNTTがSBIHDに1100億円を出資する「破格」の条件を提示し、北尾氏の合意を取り付けた。

マネックスや松本氏にとって寝耳に水だったのは、パートナーであるはずのドコモがSBI証券と提携を結んだことだ。ドコモは、マネックス証券とSBI証券の双方を「公平かつ公正に扱う」ことで北尾氏と合意。これにより、マネックス証券がドコモの顧客基盤から派生する証券取引を独占することが不可能となったばかりか、ドコモの銀行業参入を土壇場で手助けした経緯から「実態はSBI証券の方が圧倒的に有利な立場にある」(関係者)。

実はSBI証券にとっても、ドコモとの太いパイプ作りが焦眉の急だった。証券総合口座数ではライバルの楽天証券に勝っているものの、昨年から業界の主戦場となっているNISA口座数では楽天証券の約640万に対し、SBI証券は約560万と後れを取っている。北尾氏も「なぜ楽天証券なんぞに負けているんだ」と連日発破をかけるようになっており、楽天証券を追い抜くには約9000万ユーザーを抱えるドコモとの提携が不可欠だった。

片や、袖にされたマネックス証券のNISA口座数はネット証券2強の10分の1程度。頼みの綱だったドコモとの関係が希薄になれば、2強の背中は一段と遠のくことになる。しかも、松本氏と北尾氏は昔から、記者の面前でも互いのことを罵る相容れない仲。その北尾氏にしてやられたのだから、「松本さんは切歯扼腕していることだろう」(冒頭の証券会社役員)。

松本氏を奈落の底に突き落としたのは、北尾氏によるパートナー強奪劇がこれで2度目という事情もある。ネット証券2強に大差を広げられたマネックス証券は2022年から、新生銀行(現SBI新生銀行)と包括的業務提携をスタートさせ、同行の顧客にマネックス証券のサービスを提供するパートナーシップを築いた。ところがSBIHDが同行の株式を買い集め、翌年にはTOBを実施。SBIHDの子会社となった今、同行の顧客に対する証券サービスはSBI証券が主体的に提供するようになっている。天敵に2度も苦杯を嘗めさせられた松本氏の心情は、察するに余りある。

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