2025年8月号
POLITICS
[「令和の風雲」]
by
本庄知史
(立憲民主党衆議院議員)
6月22日、国会会期末のガソリン減税法案をめぐる混乱の末に閉会した第217回通常国会。30年ぶりの少数与党、いわゆるハング・パーラメント(宙づり国会)という状況の中、国会の景色は様変わりつつある。
衆議院予算委員会で石破総理と向き合う
今国会、我々立憲民主党は野田佳彦代表を先頭に「熟議と公開の国会」を掲げ、国民から見えづらい与党審査や政党間協議よりも、ガラス張りで議事録も残る国会審議を重視して臨んだ。
その象徴が、立憲民主党の提案によって初めて実施された「省庁別審査」だ。3日間にわたり、各省庁別に予算案の細部に至るまで集中的に審議した。
立憲民主党では、総勢70人規模の「本気の歳出改革」作業チームを立ち上げ、各省庁の予算案を徹底的に精査し、必要性の乏しい予算、優先順位の低い予算、活用されていない基金などを洗い出した。
とりわけ、基金は財源の宝庫だった。例えば、年間必要額の倍額以上の1800億円が積まれた「コロナワクチン生産体制等緊急整備基金」は、我々の指摘を踏まえ、与党の予算修正でも財源とされた。
あるいは、私が取り上げた「グローバル・スタートアップ・キャンパス基金」。これは補正予算で計636億円も積み上げながら、2年以上全く事業が進展せず、支出はわずか1億円余りというトンデモ基金の代表格だ。
こうした省庁別審査を経て、我々が発掘した財源は計3.8兆円に上った。極めて短期間、かつ野党の立場で情報が十分でない中での3.8兆円。「与党や財務省はこれまで一体何をしていたのか」との思いだった。
その成果が結実したのが、国会に我が党が提出した予算修正案だ。発掘した3.8兆円の財源を裏付けに、新たな国債発行や国民負担増に頼ることなく、国民の命と暮らしを守り、子どもたちの未来を切り拓くための政策パッケージを打ち出した。
高額療養費の負担上限額引き上げ凍結、ガソリン・軽油の暫定税率廃止、学校給食の無償化、高校授業料無償化の拡充、介護や保育の現場で働く方々の処遇改善、「年収130万円のガケ」対策など、直ちに実施すべき重要政策のラインナップだ。
これに対し、与党の修正案は小粒の修正に留まった。維新の会が与党案賛成に回り、残念ながら与党修正案が可決されたが、参院でも修正が加えられ、我々が強く求めた高額療養費の負担上限額引き上げは凍結された。衆参両院での予算修正は現行憲法下で初めてのことだ。
修正は予算だけではない。政府提出法案についても、今国会で成立した58法案に対し、立憲民主党は衆参で24本の修正案を提出、うち10本が可決された。昨年の通常国会で可決された修正案は3本だったので、その変化は一目瞭然だ。
我が党の修正案は、私が理事を務める内閣委員会所管の「能動的サイバー防御法」の他、公立学校教員の給与特別措置法改正、将来の年金の底上げを図る年金法改正など、国の根幹政策の修正も含まれる。オンラインカジノや悪質ホストといった社会問題を規制する立法でも、リーダーシップを発揮することができた。
今国会では、立憲民主党が賛成した法案は52本で、条約12本と合わせて実に90%超の賛成率となった。もとより昨年の通常国会の賛成率も80%で、実は一般に認識されているよりはるかに賛成が多いのだが、とりわけ今国会は、法案修正が増えたことで、さらに賛成率が上がった。
今国会では、政治改革や選択的夫婦別姓制度など、30年来の「宿題」にも動きがあった。
政治改革では、自民党の裏金問題を受け、昨年末の臨時国会で廃止となった「政策活動費」に続いて、今国会では月100万円の「調査研究広報滞在費(旧文通費)」の使途公開や残金返納の義務化も決まった。
ただ、1994年の「平成の政治改革」以来の宿題である企業・団体献金禁止については、立憲民主党と維新の会が共同で禁止法案を提出したものの、自民党は「禁止より公開」を掲げて反対姿勢を変えることはなかった。さらに国民民主党と公明党が独自案を主張するなど各党がまとまらず、結局採決に至らなかった。
選択的夫婦別姓制度も、1996年の法務省法制審議会答申からの宿題だ。昨年秋、立憲民主党が法務委員長ポストを獲得したことで、28年ぶりに審議が再開。立憲民主党、国民民主党がそれぞれ別姓案を提出し、維新の会が旧姓使用の拡大を盛り込んだ案を提出したが、いずれの法案も過半数を得られる見込みが立たず、これも採決に至らなかった。
歴史的な国会が一旦終わり、次なる舞台は参院選に移る。今回の参院選の争点は、何と言っても物価高対策だ。
物価高対策の本丸は、物価上昇を超える賃金アップ、企業収益の改善、経済成長をリードする産業や技術だ。しかし、こういった中長期的な政策とは別に、国民生活の下支えのための短期的な対応も必要だ。
中でも、特に家計を圧迫している食料品やガソリンといった生活必需品の負担軽減は待ったなし。そういう観点から、立憲民主党は、時限的な食料品の消費税減税(8%から0%に引き下げ)、そして、ガソリン減税(旧暫定税率の廃止)を当面の物価高対策の柱として掲げている。
あわせて、食料品消費税ゼロ実施までの緊急の家計支援として、1人2万円の給付を行う。これは所得に応じて課税対象となるので、従来の選挙前のバラマキとは別物だ。また、食料品消費税ゼロ終了後は「給付付き税額控除」(中低所得者向けのキャッシュバック)を導入し、消費税の逆進性対策を講じる。
このように、①給付、②食料品消費税ゼロ、③給付付き税額控除という、いわば3段ロケットを矢継ぎ早に繰り出しながら、「物価高に負けない強い経済」実現に向けた中長期的取り組みを進めていく戦略だ。
最後に、話をまた国会に戻したい。政策決定に時間を要し、政権が不安定化するといわれる「宙づり国会」だが、「熟議と公開の国会」となれば、野党の政策や多様な意見が反映されやすいというメリットも大きく、議会制民主主義の原点に立ち返る一つのきっかけになると期待している。
一方で、熟議や公開の対象が、国会に提出された予算や法案をめぐる議論に留まった点は、やはり限界ともいえる。経済財政、社会保障、教育、安全保障といった中長期的課題は、日々の国会審議だけではカバーしきれない骨太のテーマだ。
今国会中、この点について一つの示唆となる動きがあった。民間の経営者や有識者からなる「令和臨調」のもとに設置された超党派国会議員会議が5月末、「統治構造・政治改革」「経済・財政・社会保障」「人口減少・地域・国土構想」「科学技術・イノベーション」の4分野の政策提言を発表した。
私は「経済・財政・社会保障」のメンバーとして、1年以上にわたり、20名を超える与野党の国会議員が十数回の勉強会を重ねた。
「防衛費倍増の見直しなど既定路線に捉われない議論が必要」、「『経済あっての財政』との政府・与党の方針は財政健全化とは相容れない」など、遠慮なく発言したが、打ち出された提言でも「経済成長と財政健全化の両立」「市場の信認の確保」など、財政規律重視の方向性が明確となった。財政の現状に危機感を持つ政治家たちの共有認識が導いた結果だと私は考えている。
目の前の予算や法案だけでなく、中長期の国家的課題について、与野党が党派を超えて胸襟を開いて議論し、方向性を見出していく。これが目指すべき次なる国会の姿、いわば「熟議と公開の国会2.0」ではないだろうか。
※「令和の風雲」は、各政党・会派の新進気鋭の論客が筆を競い、「とっておきの持論」を述べる連載(不定期)です(編集部)