好調「ファミマ」の立役者/「足立光」気になる去就

第2四半期の事業利益は3年連続で最高を更新。しかし立役者が永遠にいるとは限らない。

2025年12月号 BUSINESS

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足立氏(右から2人目)はいわゆる「P&Gマフィア」だ

Photo:Jiji

ファミリーマートの業績が好調だ。10月8日に発表した2026年2月期第2四半期の連結業績は、事業利益が前年同期比19%増の616億円。同期間として3年連続で過去最高を更新した。1店舗あたりの1日あたり売上高は同2万2千円増の59万5千円と、これも同期間として過去最高を更新した。

コンビニで衣料品の立役者

「米大リーグの大谷翔平選手をアンバサダーに起用したおにぎりの販売が好調で、『大谷効果』の恩恵を受けた。物価高のなかで8月に打ち出した増量キャンペーンが集客に寄与し、菓子類など店舗でのついで買いの需要を促し、販売全体が押し上げられている構図だ」と大手証券アナリストは解説する。

ファミマは新型のおむすび製造機を24年度中に全国の工場に設置していたという。これを細見研介社長は「すさまじい効果」と評価。「米飯の売上拡大ばかりでなく、加盟店の意識高揚にも影響を与えた。インフレ時代の消費者とコンビニとは何か。加盟店と一丸となって追求する気持ちが良いモメンタムに繋がっていると確かな手応えを感じている」と胸を張る。加盟店利益も過去最高を更新し、ウィンウィンの状態を築き上げているといえるだろう。

一時はコンビニ業界3位が定位置だったファミマに何が起きているのか。支えるのは、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務める足立光氏と言っても差し支えない。日本でも爆発的な人気を呼んだ「ポケモンGO」などを開発する米ナイアンティックから転じた人物だ。

CMOは流通業界では珍しくない役職だが、ファミマは20年10月、日本のコンビニ大手では初めて同職を社長直下に置いた。そこにマーケターとして業界では「超大物」として知られる足立氏を起用した。

「Tシャツやパーカーを着るなど服装はいつもラフ。迷彩柄を着ていることもある。よくスマホをいじりながら社内をうろうろしているのでかなり目立つ」(ファミマ関係者)とされるが、いったいどんな人物なのか。

米テキサス州オースティン生まれ。一橋大商学部を卒業後、著名マーケターを数多く輩出してきた米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)日本法人でキャリアを積み始めた。P&G出身でマーケティング分野で活躍する人材を「P&Gマフィア」と呼ぶが、足立氏もその一人だ。その後、ドイツのヘンケルグループなどで働き、日本マクドナルドへ転じた。このマック時代にマーケティングの本能が一気に開花する。

マックでは当時、チキンナゲットに使う鶏肉の使用期限偽装や異物混入問題という不祥事が相次いでいた。14年12月期から2期連続で連結最終赤字に陥るなど、外食業界で盤石の地位を築いてきた「マック」の評判は地に落ちていた。

窮地に立ったサラ・カサノバ社長(当時)が信頼回復へ向けて招聘を決断したのが、当時アパレル大手ワールドの執行役員に就いていた足立氏だった。物おじしない姿勢がマクドナルドの文化にそぐわないとされ一度は最終面接で落とされた足立氏を、カサノバ氏がすくい上げたのは逸話として知られる。

マックに火中の栗を拾いに行った足立氏。100円追加するとパティが2倍になる「夜マック」やSNSの拡散力をいかしたキャンペーンなど話題性のあるキャンペーンを次々に打ち出して集客につなげていったことが語り草になっているが、復活を支えたのは「定番商品の強化」というシンプルな戦略だった。それはこんな考え方による。

期間限定メニューは集客には一時的な役割を果たす。しかしこれに依存すると毒薬にもなる。これを当時のマックに置き換えるとこうなる。

「メガマック」など400円弱という高価格帯のバーガーは確かにヒットした。しかしその反動で、客単価は落ち込みかねない。そこで「ダブルチーズバーガー」や「フィレオフィッシュ」といった定番メニューを改良し、地力を上げることこそが強さにつながると足立氏は考えた。

マーケティングに関する足立氏の考えを取り入れたマックは不祥事の後遺症から脱し、復活を遂げた。足立氏は「マクドナルドをV字回復させた立役者の一人」(外食関係者)と評されるまでになっていた。

そんな足立氏を招き入れたファミマが抱えていた課題もマックとよく似ている。伊藤忠商事を親会社に持つ典型的な日本の大企業、店舗スタッフが覚えきれないほど毎週登場する新商品、低迷する来店客数や日販。こうした課題に足立氏はメスを入れていった。

足立氏がファミマに入社後、まず着手したのは定番メニューの底上げだった。まず定番商品の味を見直し、ファミマに「おいしい」というイメージを定着させていくことを優先した。対象になったのはメロンパンとクリームパン。製法の見直しにとどまらず、販促も新商品よりも定番商品を大きく打ち出す方針に変えた。今期、大ヒットにつながった大谷翔平のおにぎりもその延長線上にある発想だといえる。

もう一つのヒット作は「コンビニエンスウェア」だ。おにぎりやコーヒーのようにコンビニで衣料品を買う文化をつくりたいと考えた、いわば「常識破り」のアイデアである。

クリエイティブディレクターにアパレルブランド「FACETASM(ファセッタズム)」の気鋭のデザイナー・落合宏理氏を起用、若い世代の支持を得た。24年度の売り上げは130億円超。利用者は出張など急な理由で購入するだけでなく、普段からコンビニで靴下やTシャツを買うという習慣を作ったようで、ローソンなど他社も追随し始めている。

一強セブンに見える陰り

コンビニ業界ではセブン–イレブン・ジャパンが首位をひた走り、一強時代を続けてきたが、その勢いには陰りが見え始めた。セブンの9月の既存店売上高は前年同月比0.5%増と、ローソン(同4.5%増)とファミマ(同3.3%増)より伸び悩んでいる。あるコンビニ大手幹部はこう語る。

「コンビニはセブンがやったことをファミマとローソンが追随する歴史だったが、この流れが変わるかもしれない。ファミマが9月に出したコンビニエンスウェアだけを売るサテライトショップは試金石になるだろう」

勢いづくファミマだが、視界良好と断言するのは早計だ。マック復活の立役者の一人となった足立氏は同社にしがみつくことなく3年で去った。ファミマでも社歴はすでに5年が経過している。ファミマの正念場は、意外にこれからかもしれない。

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