2026年2月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
人的資本経営を意識する企業が増えている。社員を「コスト」ではなく「資本」と捉え、中長期的な企業価値向上をめざす考え方だ。満足な研修もなく、気まぐれな上司の意向に振り回されるか放置されてきたバブル世代からすると、隔世の感がある。
人口減少で人材の確保が難しくなっているうえ、戦後の日本経済を支えてきた「終身雇用」が崩れてしまったことが背景にある。若者は勤め先に特段不満がなくても転職サイトに登録し、魅力的なオファーがあれば簡単に辞めてしまう。
国は2023年から人的資本情報の有価証券報告書への開示を義務付けた。人材育成方針や女性管理職比率、男性の育休取得率など6項目。さらに研修時間や離職率など19項目の開示を推奨している。
昨年夏には国際標準規格のISO30414が改訂され、人権や労働組合の要素が追加された。三井物産や日清食品ホールディングスなど20社ほどが認証を取得して人材戦略に活用している。統合報告書や人的資本レポートで踏み込んだ開示をしている企業もある。ただし、ISOが求めるリーダーシップや後継者計画について記述している例は少ない。
学習院大学の滝澤美帆教授によると「人を育てる企業ほど人が集まり定着する」という。他の先進国に比べ人的資本投資のGDP比が見劣りし、労働生産性の低さにつながっているとみる。
注意すべき点もある。日本総研の林浩二プリンシパルは「経営目線に偏ると真の人材投資のリターンを見誤るおそれがある」という。例えばコロナ禍で定着したテレワーク。最近はオフィス回帰が鮮明で出社を義務付ける企業が多い。テレワークが表面的なパフォーマンスを下げるからだ。しかし林氏は「本来なら(テレワーク廃止で)辞めていた人が会社にとどまり、実際のリターンは上がる可能性がある」と指摘する。
(ガルテナー)