「いまの亀田を見ていると『こんな歳まで生きたくなかった』と思います。こうなったのはすべて私の責任です」(母・典子)。
2026年2月号 DEEP

除名された亀田典子氏
亀田総合病院(千葉県鴨川市)などを運営する医療法人「鉄蕉会」の亀田典子元理事が昨年の鉄蕉会の社員総会で社員を除名されていたことが本誌の調べで明らかになった。
今年3月に98歳になる典子は、亡き夫の俊孝と二人三脚で亀田グループを支え、発展させた中興の祖である。典子の除名を主導したのは典子の次男、亀田隆明理事長と隆明の長男の俊明だった。鉄蕉会の社員は11人おり、須藤英章弁護士以外は全員が亀田姓の同族。医療法人の社員は企業の株主に相当、社員総会は企業の最高議決機関の株主総会に当たる。
須藤を除く10人の内訳は、隆明ファミリー4人(隆明とその長男俊明、長女奈々、三男隆太)、俊忠(典子の長男で隆明の前の理事長。浪費癖のため事実上理事長を解任された経緯がある)、典子とその意思を継ぐ信介、省吾の双子(典子の三男と四男)、亀田4兄弟のいとこの亀田郁夫(元鴨川市長)とその弟の秀次(亀田総合病院歯科センター長)。
隆明ファミリーと、俊忠の他に、一人を加えるだけで過半数に達する都合の良い構成になっていることから、隆明親子は、社員総会を利用して目の上のタンコブを追放してきた。

亀田総合病院の礎を築いた亀田俊孝・典子夫妻(1991年夏)
2020年6月には、当時の亀田信介・亀田総合病院院長を社員総会で解任、後任に俊明が就任した。翌21年6月の社員総会でも亀田クリニック院長の省吾を解任。二人の解任に抗議して多くの幹部医師、看護師、職員が亀田を去った。
信介と省吾は、院長解任を不当として千葉地方裁判所館山支部に訴えを起こし、24年3月、千葉地裁(谷池厚行裁判官)は「社員総会のみで原告らを院長から解任することはできない」、「解雇は解雇権を濫用したものとして無効といわざるを得ない」として、信介、省吾の主張を全面的に認める判決を言い渡した。
だが隆明親子は判決後も信介・省吾を院長に戻さず、今回、社員総会で年老いた典子を除名したのだ。現在、典子は除名を不当として千葉地裁館山支部に訴えを起こして争っている。
典子を社員から解任する決議は、なぜか2度行われた。一回目は25年6月27日の定時社員総会だった。理事長の隆明は、この総会の前に、鉄蕉会の社員に議案などを送付したが、「亀田典子社員除名の件」とあるだけで典子を除名する理由は明確にされていなかった。
複数の関係者によると、典子の除名に賛成したのは隆明と3人の子ども、俊忠、隆明側に委任状を託して欠席した秀次の6人。信介、省吾、省吾に委任状を託して欠席した典子、秀次の兄の郁夫の4人が除名に反対したが、隆明親子だけで4票を持つ数の力で押し切られた。須藤弁護士は社員総会の議長役を務め、賛否同数のとき以外は議決権を行使しないことになっている。
なお、郁夫は所要のため欠席したが、典子の除名に反対する議決権行使書を隆明に事前に提出し、功労者の典子の尊厳に配慮することを求める意見書も出した。
鉄蕉会の定款によると、社員資格喪失理由は「除名、死亡、退社」。このうち除名について、同定款は「社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し、又は品位を傷つける行為があった」者については社員総会の議決を経て除名できると定めている。
2度目の除名決議が行われたのは25年10月31日の臨時社員総会だった。前回の定時社員総会では、典子の除名理由を明確に示さないまま除名を強行し、それに対して典子が訴えを起こしたため、改めて除名理由を明らかにして除名を合理化する必要があったものと推測される。除名に賛同したのは前回と同じ6人だった。
隆明側が臨時総会に提出した除名理由は大きく2つあった。一つは高齢の典子が20年の定時社員総会に出席してから委任状による出席が続いていることで、これが社員の義務履行違反に当たるとした。

千葉県鴨川市にある亀田総合病院(HPより)
典子は20年の時点で、すでに92歳の高齢者だった。その典子に対し、隆明は21年11月、典子が長年住み暮らした自宅(鉄蕉会名義)からの退去勧告を通知。その後、体調を崩した典子は施設で生活を始めた。典子はいまも年齢を感じさせないほど物事をよく覚えているが、転倒による骨折などを繰り返したことから車椅子が欠かせなくなっている。
鉄蕉会の定款には、社員総会欠席と除名の関係について明確な規定はない。また典子は欠席の際に必ず委任状を出しており、委任状すら出さずに欠席したわけではない。客観的に見て、委任状による出席を理由に除名するのは無理筋と思われる。
除名理由の2つ目は、典子が鉄蕉会の取引先に手紙を出したり、本誌のインタビューなどに応じて鉄蕉会の実情を話したことが、鉄蕉会に対する名誉毀損に当たるとした。
問題の手紙は信介が解任された20年末に、「隆明、俊忠へ 母より」と題して典子がしたためたものだ。隆明親子のクーデターに衝撃を受けた典子は、窮余の策としてこの手紙のコピーを亀田グループの取引銀行や取引先などに送った。
手紙には、子育てについての慙愧の念と、身内の恥をさらしてでもグループを救おうとする強い決意が次のように記されていた。
「あなた達の信介、省吾に対する理不尽な背信行為は、私は絶対に受け止められず、許すことができません。愚かな親として慙愧に堪えません。なぜそのようなことをする人間に育ててしまったのかと忸怩たる思いでこれまでを振り返っています」
「私のこの苦しい現在の心境こそまさに私に課せられた最後の運命であり、私の人生はまだ終止符を打てないということを悟りました」
典子は、隆明と俊忠について「あなた達は、結果が良ければ全て自分の手柄にし、結果が悪い時は部下に全ての責任を押し付けてきました」、「あなた達の裏切り行為は人間としても一滴の情けも条理もなく、私は親として恥じ入るばかりです」と嘆いた。

次男の亀田隆明理事長
本誌は、2021年3月号で初めて亀田の内紛を取り上げてから、昨年3月号(『亀田総合病院「身売り説」の真相』)まで、繰り返し追及してきた。その理由はひとえに、典子の「亀田を潰してはならない」という切なる願いと老いの気骨に共感を覚えたからだと言っても過言ではない。
本誌の2度目のインタビューに典子はこう答えた。
「いまの亀田を見ていると、正直、『こんな歳まで生きたくなかった』と思います。こうなったのはすべて私の責任です。私が隆明を理事長にして権力を持たせたのが大きな過ちでした。このままでは死んでも死にきれません」
典子の除名について本誌が隆明側に文書で事実確認を求めたところ、隆明側は代理人弁護士を通じて文書で「亀田典子氏が当法人に対し地位確認等を求める訴訟を提起されていることは、貴殿らもご承知のとおり」と記し、除名決議を行ったことを認めたが、詳細については係争中を理由に回答を避けた。
社員総会で除名された典子は立場上、裁判所に決議無効の訴えを起こさざるを得なかった。それによるイメージダウンの方が、鉄蕉会の痛手になることは、誰の目にも明らかだろう。保身と独善に走る隆明親子の焦りの表れではないか。
典子は隆明らへの手紙で「地位へとお金への固執、私欲の強さ、そして極端な家族主義は私達の目指してきた全ての人々の幸福のために努力し続けるという博愛の精神とは対極」にあると指摘し、「このような考え方を持った者が病院のトップにいることで、亀田の信頼は落ち、衰退に繋がっていくでしょう」と書いた。それが赤裸々な現実になってしまった。
(敬称略)