2026年7月号 INFORMATION

「GATEWAY Tech TAKANAWA 2026」では6人乗り自動運転EVの試乗会などが実施された(JR東日本提供)
JR東日本が品川車両基地跡地で進めてきた国内最大規模のまちづくりプロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)」が今年3月28日にグランドオープンした。昨年、高輪ゲートウェイ駅前の「THE LINKPILLAR 1」の開業により、まちびらきを迎え、新たに大型複合施設や文化創造発信施設、住宅など3棟が開業し、街全体が本格稼働した。
高輪ゲートウェイシティはJR東日本が推進する浜松町・田町・高輪ゲートウェイ・品川・大井町の5駅にまたがる東京南エリアを一体とした「広域品川圏」の中核となり、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づける未来型複合都市だ。3月28日のグランドオープンのセレモニーで、JR東日本の喜㔟陽一社長は「広域品川圏が世界に向けたイノベーションの始まりの地となるように、新たな歴史がスタートする」と宣言した。

マーケティング本部まちづくり部門品川ユニットの出川智之マネージャー
鉄道会社のJR東日本がなぜ高輪の地で、イノベーションを生み出すまちづくりに乗り出したのか。プロジェクトのブランディング・プロモーションを担当するマーケティング本部まちづくり部門品川ユニットの出川智之マネージャーは「高輪はイノベーションの記憶がある街だからだ」と説明する。1872年(明治5年)に日本初の鉄道(新橋~横浜間)が開業したが、当時の高輪は海に面しており、海の上に列車を走らせなければならなかった。そこで、石垣で線路を支える堤(築堤)を設置することになった。「当時の日本の土木技術と西洋の鉄道技術を掛け合わせることで、開業にこぎ着けた。まさに高輪は日本の鉄道のイノベーションを起こした地といえる」(出川氏)
JR東日本は鉄道事業をはじめ、Suicaやホテル、商業施設など多様なサービスを通じて、多くの人の日常やくらしを支える事業を展開している。出川氏は「当社は公共性を帯びている会社でもあり、このプロジェクトを通じて、高輪から社会に還元できるものを生み出し、貢献したいという思いがある」と話す。高輪ゲートウェイシティには社会課題を解決し、人々の心豊かなくらしを実現し、幸福度を上げていくという使命がある。

マーケティング本部まちづくり部門品川ユニット共創推進担当の中島悠輝副長
高輪ゲートウェイシティでは、スタートアップ(新興企業)やオフィスワーカーをはじめ、約10万人が滞在する街全体を壮大な実験場にして、新たなビジネスや文化を創造しようとしている。JR東日本とKDDIなどが共同運営する都市OS(基本ソフトウェア)をベースに、あらゆるデータを収集・分析し、次世代のスマートシティのモデルを作ろうとしている。
具体的にどのようにイノベーションを生み出していくのか。マーケティング本部まちづくり部門品川ユニット共創推進担当の中島悠輝副長は「3つのエコシステムをうまく循環させて、新たなビジネスを生み出そうとしている」と明かす。その核となるのが都内最大級のビジネス創造・インキュベーション拠点「TAKANAWA GATEWAY Link Scholars’ Hub(LiSH)」だ。
LiSHは、多様で先端的な知や技術を持つ人(Scholars)をつなぎ(Link)、新たなイノベーションを生み出す実験場という意味が込められている。「環境」「モビリティ」「ヘルスケア」の3つを重点テーマに据え、都内最大級の規模となる約5千平方メートル(延べ床面積)のスペースを有する。Studio1には、会員同士が交流できる150~200席のワーキングスペースなどがある。理科の実験室のような「Lab(ラボ)」も併設されている。Studio2は東京大学GATEWAY Campusが隣接し、最先端の研究サポートが受けられる。3月28日にオープンしたStudio3は、会員企業の先進的なサービスを展示し、利用者に体験してもらう施設となっている。
昨年5月のLiSH開業以降、会員数は約180社に上り、そのうち、半数はスタートアップで、4割が大企業、残り1割はアカデミア系だ。中島氏は「認知度が高まり、レベルの高いスタートアップが続々と集まっている」と手ごたえをのぞかせる。
JR東日本の社員が「ブリッジコミュニケーター」となり、会員同士を仲介し、交流が活発化しており、すでに53件の実証実験が行われている。昨年度は視覚障害者が高輪ゲートウェイ駅から「ニュウマン高輪」の店舗までスムーズに歩行を誘導できるのか検証する実証実験を実施した。スタートアップ、Ashirase(アシラセ)が開発したコンパクトな機器を靴に取り付け、アプリで目的地を伝えると、足に伝わる振動で目的地まで案内してくれる。「実証実験の結果、安心してお店に行けることから、従来よりも滞在時間や買い物の満足度が50%向上した」(中島氏)。このほかには次世代の都市型農業を目指し、環境データをリアルタイムに収集・分析して、イチゴを自動栽培する取り組みなども行われている。
そして、もう一つのエコシステムが「高輪地球益ファンド」だ。JR東日本を中心に出資する約100億円規模のファンドで、組成して1年半が経過したが、約10社の投資実績がある。スタートアップを資金面からサポートし、事業化を後押しする。最後のエコシステムは、年に1度開催されるビジネス創造イベント「GATEWAY Tech TAKANAWA」だ。会員企業の最先端の技術やサービスを展示し、参加者は実証実験を体験できる。グランプリに賞金が出る「ピッチコンテスト」も開催される。今年は5月13・14日に開かれ、約4500人が来場し、盛り上がりをみせた。参加者にUWB対応のモバイル端末を貸し出し、スマートフォンなどに搭載された「Suica」でタッチせずに改札を通過できる体験会など未来の技術を披露した。

文化創造発信施設「MoN Takanawa:The Museum of Narratives」
高輪ゲートウェイシティはビジネスだけでなく、文化の創造と発信にも力を入れている。3月28日に地上6階、地下3階建ての文化創造発信施設「MoN Takanawa:The Museum of Narratives」も開館した。100年先へ文化をつなぐをミッションに、「日本古来の文化やテクノロジーを融合し、化学反応を引き起こして、新たな文化価値を生み出していくという理念がある」(出川氏)。
外装デザインを担当した建築家の隈研吾氏によるモダンな館内には約1500平方メートルの巨大な展示空間、ステージ全面にLEDパネルを備えたシアター空間、約100畳の畳などがある。屋上には「足湯」があり、新幹線やモノレールなどの景色を眺められる。施設名のMoNにはゲートの「門」と「問い」という意味が込められている。出川氏は「来館者に普遍的な問いを投げかけ、新しい文化の発見につながるゲートウェイでありたい。そこがMoNの狙い」と説明する。
高輪ゲートウェイシティは鉄道会社がゼロから作る未来の街で、高輪の地から生まれた成功事例を日本全国や世界に展開する戦略を描く。100年先に向けたJR東日本の壮大な実験はスタートしたばかりだ。
(取材・構成/副編集長 黄金崎元)