「世界大学ランキング」/東京大学の「研究の質」は655位!/なぜ、藤垣裕子・新総長(64歳)なのか

号外速報(10月2日 22:00)

2026年10月号 DEEP
by 倉澤治雄 (科学ジャーナリスト)

EUのトップ大学を抜いた清華大学のHP

「日出処の天子、書を日没する処の天子に致す、つつがなきや…」

聖徳太子が607年、隋の煬帝に出した書簡の頭語である。「日昇る国」日本の天子が、「日没する国」中国の天子に書簡を送るという出だしに、暴君煬帝は激怒したと伝えられる。日本は古墳時代である。中国の観念からすれば異民族「倭国」の長を天子と認めることはできなかった。

21世紀の現代、科学技術分野では中国がまさに「日昇る国」である。

米国と中国の科学技術覇権をめぐる競争では、すでに中国が「論文数」「高被引用度論文数」「研究者数」に加えて「研究開発投資」でもトップとなり、「四冠」を達成した。

トップ15に「中華圏3校」ランクイン

清華大学の卒業式(2026年6月28日、大学HPより)

第二次トランプ政権が昨年来、「多様性」「公平性」「包括性」の尊重(DEI)や「反ユダヤ主義」を口実に補助金削減など大学への圧力を強める中、今年の世界大学ランキングには例年以上の関心が集まった。

9月30日に公表された「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」の「世界大学ランキング2027」によると、上位10校は米国と英国の大学が死守した。

昨年まで12位だった中国の清華大学は11位に進出、ベストテン入り目前にまで迫った。清華大学は名門ETHチューリッヒを抜き去ったが、アジアの大学がEUのトップ大学を抜いたのは、ランキング始まって以来の快挙である。

また13位に北京大学、15位にシンガポール国立大学が入り、THEは「アジアの大学が初めてトップ15に3校がランクインした」と讃えた。

THEはまた「欧米諸国の多くが相対的に衰退傾向にあるのと対照的に、東アジアとASEAN地域で主に研究スコアの向上によって順位を押し上げた」と分析する。

THEの上位200校は「一流大学」と評価されるが、中国は昨年の13校から17校へと数を増やした。米国は2校減らして53校、英国は1校減らして25校である。中国の「日の出の勢い」は止まらない。

清華大学を生み育てたのは米国

日本からは東京大学が27位、京都大学が62位にランクされた。それぞれ昨年と比べて一つずつランクを落とした。日本の大手メディアは次のように報じた。

「世界大学ランク、東大27位・京大62位・・・アジアトップは清華大の11位」(読売新聞)

「世界大学ランキング、アジアの存在感増す一方、東大は順位下げる」(NHK)

「東大26→27位・京大61→62位に下落」(日経新聞)

THEは「日本は衰退の兆しを見せており、東京大学と京都大学は政府が卓越性向上に向けて継続的に投資しているにもかかわらず、それぞれ27位と62位タイに順位を落とした」と評している。

日本の大手メディアは東大、京大の順位にしか関心がないが、データを詳細に分析すると、中国の躍進とは対照的に、日本の大学の研究力が立ち直れないほど劣化していることが分かる。

まず中国を見てみよう。ベストテン入り目前の清華大学は清朝時代の1911年に「清華学堂」として設立された。1900年の義和団事件で列強が巨額の賠償金を求めて清朝政府が返済に苦しむ中、米国が賠償金の一部を返還して建てられた。目的は中国人学生の米国留学で、名称は「清華学校」「清華大学」と変遷して今日に至る。

その清華大学はTHEのランキングが始まった2011年には58位だったが毎年順位を上げ続け、25年を経た今日、米国の超一流大学を脅かすまでに成長した。清華大学を生み育てたのは実は米国なのである。

上位200校には清華大学、北京大学(13位)以外にも注目の大学が並ぶ。

浙江大学(34位)は最近メキメキ力をつけており、復旦大学(38位)、上海交通大学(39位)などの老舗大学と覇を競う。

中国科技大学(51位)は量子科学の世界的センターで、ほかにも南京大学(59位)、ハルビン工業大学(96位)、武漢大学(121位)、同済大学(124位)、北京師範大学(125位)、急成長中の南方科技大学(163位)、南開大学(173位)、軍との関係が深い北京航天大学(185位)、華中科技大学(191位)、天津大学(196位)、西安交通大学(196位)の計17校が名を連ねる。

東京大学の「研究の質」は655位

東京大学教養学部のキャンパス正門

日本はどうか。まず上位200位に入るのは東京大学、京都大学のほか東北大学(106位)、大阪大学(147位)、東京科学大学(185位)の5校である。

名古屋大学(242位)、九州大学(301-325位)、北海道大学(376-400)などの旧帝大はもはやグローバルでは一流大学として通用しない。

THEの分析にある通り、東京大学と京都大学には基盤的経費である運営費交付金が大量に注ぎ込まれている。2024年度実績で東京大学は847億円、京都大学は571億円で、最も少ない鹿屋体育大学や小樽商科大学の14億円程度と比べると圧倒的に優遇されている。

2011年には東京大学(26位)、京都大学(57位)、東京工業大学(112位)、大阪大学(130位)、東北大学(132位)とそこそこの成績を収めていたが、今は中国に引き離されるばかりで、東南アジア、東アジア、中東の大学に後ろから激しく追い上げられる形となっている。

総合順位だけではない。内容はさらに悲惨である。

THEの評価方法は「教育(29.5%)」「研究環境(29%)」「研究の質(30%)」「国際性(7.5%)」「産業連携(4%)」の、合わせて100ポイントで行われる。

「研究の質」に注目すると、東京大学はなんと655位である。トップはマサチューセッツ工科大学(MIT)で2位スタンフォード大学、3位カーネギーメロン大学、4位ハーバード大学と続く。アジアの大学では香港中文大学の9位を筆頭に香港の大学が健闘する。清華大学は48位、北京大学は112位である。日本のトップは順天堂大学の489位で東京大学は2位である。

欧米や中国、香港、韓国、台湾の大学に劣後しているだけではない。

55位のアラブ首長国連邦シャルジャ大学、ヨルダンのアル・アーリヤ大学(59位)、サウジアラビアのプリンス・スルタン大学(83位)をはじめとする中東の大学、インドのチトカラ大学(59)、パキスタンのコムサット大学(245位)、 バングラデシュのダフォディル国際大学(302位)など南アジアの諸大学、ベトナムのデュイタン大学(125位)、インドネシアのスナン・カリジャガ国立イスラム大学(282位)など東南アジアの大学よりも下位に位置するのである。

もちろん研究成果は年によって変化する。しかし東京大学の「研究の質」の推移を複数年で見てみると2023年が最低で、24年以降は上昇傾向にある。つまり「上昇してもこの程度」なのである。

学長の7割が65歳以上の日本

「東京大学の新総長に藤垣裕子氏、女性の総長は大学創立以来初」と報ずるNHK

東京大学が総合評価で27位を維持できるのは、「教育」と「研究環境」それに「産業連携」のポイントが高いからで、「研究の質」は世界約3500大学の中の「中の上」でしかないのである。

日本では大学ランキングへの関心が著しく低い。

東京科学大学のある教授は、「ランキングを上げるために無駄な努力をしなければならない」と嘆く。しかし優秀な学生と教員争奪戦が激しさを増す世界の「頭脳循環」の中では死活的な意味を持つ。

世界大学ランキングにはTHEのほかに、雇用に直結するクアカレリ・シモンズの「QSランキング」、研究に特化した「上海ランキング(ARWU)」があり、世界の優秀な学生、研究者、大学経営者、企業が参照している。

東京大学では今年9月、総長選が行われ、大学院総合文化研究科の藤垣裕子教授が選出された。意向投票で1位となった染谷隆夫大学院工学研究科教授の票数が1107票、藤垣氏が半分に満たない553票だったことから、様々な議論や憶測を呼んでいる。

藤垣新総長は科学技術と社会をつなぐ科学技術社会論の研究者で現在64歳である。任期が終了する2033年には70歳となる。

一方の染谷隆夫教授は電子皮膚を世界で初めて切り開いた有機エレクトロニクスの研究者で、2025年には高被引用度論文の著者にも選ばれた。年齢は58歳である。

中国では学長の年齢は50代から60代前半が通例だ。清華大学の李路明学長は脳科学・宇宙工学の専門家で58歳である。中国科学院の院士でもある。

一方「日没する国」日本では学長の約7割が65歳以上である。「人工知能AI」「量子科学」「遺伝子工学」「核融合」など科学技術パラダイムシフトの時代に、彼我の差は大きい。

今回の総長選についてノーベル賞級の研究で知られる理学系のある教授は、「染谷さんが総長になれば東大も変わるだろうと期待していました」と語る。

藤垣新総長は9月29日の記者会見で、「日本と世界の学術をけん引すること」が使命だと語った。

しかし現在の東京大学は、少なくとも研究力で「世界をけん引する」ポジションにはないという現実を直視すべきであろう。

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倉澤治雄

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