連載コラム:「某月風紋」

2024年4月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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富士山が世界文化遺産に登録されて10年たった。コロナ禍前の山小屋はすし詰めで登山道はしばしば渋滞していた。「今は宿泊人員を3分の1から4分の1に減らしている」(山梨県富士吉田市)そうだが、快適な水準にはほど遠い。環境負荷などとあわせ、長崎幸太郎・山梨県知事は「このままでは危機遺産に分類されかねない」という。

インバウンドも完全復活してきた今年、山梨県は新たな条例を制定した。1日の登山者数を4千人に制限し、5合目で2千円の通行料を徴収するというもの。従来の協力金千円と合わせて3千円かかる。夜通し歩く「弾丸登山」をさせないため、夜間の通行も規制する。昨年は一度も4千人を超えていないので、人数はもっと減らすべきかもしれない。オンラインで登山届提出を義務付け、先着順で受け付けたらどうか。

世界に誇れる観光資源である富士山の価値をさらに高めるため、長崎知事は富士山登山鉄道の建設を目指している。有料道路の富士スバルラインに軌道を敷設し、LRT(次世代型路面電車)を走らせるというものだ。1400億円とも言われる事業費をかけて採算がとれるのか、投下資金を回収できるのかは精査しなければならない。それでもディズニーランド同様オンリーワンのコンテンツなので、車の通行を全面的に禁止すれば往復運賃が1万円以上でも一定の需要は見込める。

LRTは冬も運行する計画なので、観光客が分散されオーバーツーリズム解消につながる。あわせて電気や水道を整備するというから、貧弱な土産物店しかない5合目にハイクラスのホテルを誘致することも可能だ。

これに対し富士吉田市などは「富士山を傷つけてほしくない」「お金もうけの道具に使ってほしくない」と感情に訴える形で反対している。電気バスを提案するが、まずはLRTの技術的な問題を含め、同じ土俵で議論してもらいたい。

(ガルテナー)

   

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